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しつこいですが相続税について ~大前研一・柳井正『この国を出よ』~

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大前研一さんと柳井正さんの共著、『この国を出よ』を読んでみました。
この本で大前さんが相続税に反対しているというのを何かで知って、どういうことが書かれているのか読んでみたかったからです。
この国を出よ』 目次

プロローグ もう黙っていられない ─柳井正

第1章 絶望的状況なのに能天気な日本人
「失われた20年」に国民の財産300兆円が失われた ─大前
「まだ大丈夫」という錯覚はどこから生まれるのか ─柳井
今の日本は「ミッドウェー後」とそっくり ─大前
急成長アジアでは「もう日本は敵じゃない」 ─柳井
"ジャパン・パッシング"が本格化している ─大前
"経済敗戦国ニッポン"は「世界の保養所」になる ─柳井
今や世界は「日本破綻」に備え始めている ─大前

第2章 誰がこの国をダメにしたのか?
発言がブレても許されるのは日本の政治家だけ ─柳井
民主党がマニフェストを実現できない理由 ─大前
役所から保護されなかった企業ほど成長する ─柳井
「理念なき連立」がバラ撒きの温床となる ─大前
国の政治にも「経営的視点」が必要だ ─柳井
過去の失敗に学ぼうとしない不思議の国 ─大前
「成功者に厳しい税制」が国力を削ぐ ─柳井
イギリスのキャメロン首相に学ぶべきこと ─大前

第3章 変化を嫌う若者だらけの国を「日本病」と呼ぶ
仕事への志も貪欲さも失った日本人の末路 ─柳井
なぜ日本人は成長する国や企業に学ばないのか -大前
「サラリーマン根性」の蔓延とともに日本経済も衰退した -柳井

第4章 「理想の仕事」探しより「自力で食える」人間になれ
「基本」を学ばない"丸腰"社員が多過ぎる -大前
世の中に「まったく新しいこと」などない -柳井
今、ドラッカーから何を学ぶべきか? -大前
フリースもヒートテックも「顧客の創造」だった --柳井
最も求められるのは「問題の本質を探る力」 --大前
世界が相手なら、チャンスは50倍に広がる --柳井
目標なき日本人の「ロールモデル」は海外にある -大前

第5章 21世紀のビジネスに「ホーム」も「アウェー」もない
グローバル化は最大のビジネスチャンスだ --柳井
世界に通用する「最大公約数」ビジネスモデル --大前
ユニクロも"追い込まれた末"に飛び出した --柳井
GEやサムスンは人材育成に1000億円かける --大前
「次世代リーダーは外国人」の可能性もある --柳井
「優秀な外国人社員」が競争相手になる時代 ─大前
ビジネスマンの「民族大移動」が始まった --柳井
未熟な英語がグローバル化を阻んでいる --大前
進出した地域で貢献してこそグローバル企業 --柳井

第6章 日本再生のための"経営改革案"を提示する
所得税・法人税ゼロで海外からの投資を呼び込め ─大前
「費用対効果」も考えない政府は、もっと小さく! --柳井
「政治家育成」「一院制」「官僚リストラ」の三大改革 --大前
「何も決められない」政治家が官僚をダメにする --柳井
教育の世界にも「三つのC」の考え方を導入せよ --大前

エピローグ 日本を出よ! そして日本へ戻れ --大前研一


税金に関する箇所は、第6章の大前さん部分に出てきました。
大前さんの立場は、消費税を引き上げ、所得税と法人税を全廃、さらに資産課税の新設です。
所得税と法人税を全廃すれば、世界中から富裕層や企業が集まってきて「あふれんばかりの雇用」をもたらすらしいです。
まあ、そのあたりは金持ちの立場からすれば自然な主張ですが、資産課税という発想には正直びっくりしました。
以下、該当箇所。

こうして国内でお金がどんどん回る仕組みを作りながら、眠っている「資産」には課税します。これが資産課税です。現在、日本には1400兆円という莫大な個人金融資産がある一方、給与収入は下がる傾向にあります。下落する一方の所得に税金をかけるより、潤沢な金融資産に課税したほうが効率的に決まっています。課税されるなら使おうという人も増え、市場にはさらに多くのお金が出回るようになります。
資産課税の税率は1%で十分です。これでも現状の所得税や相続税よりずっと効果的です。というのも、前述した個人金融資産と不動産資産を合わせれば、国民の資産は2500兆円に上り、税率を1%に設定しても25兆円の税収が見込めるからです。法人部門を加えれば、さらに10兆円ぐらい増えるでしょう。

大前さん自身がどうかは知りませんが、世の中の金持ちの大半は、稼いでいることに加え、余計なお金を使わないことで金持ちになった人たちです。
別の言い方をすれば、彼らの目的はお金を使うことではなくお金を貯める(殖やす)ことです。
お金持ちはお金にシビアだと言われるゆえんですが、そんなことはリアルお金持ちである大前さんや柳井さんのほうがよほどよくご存じだと思います。
そんな人たちが、投資損益にかかわらず資産の1%を「毎年」徴収されたら、それこそ海外逃避の騒ぎでしょう。
それ以前に、そんな税制を実施しようとしただけで高齢者から袋叩きに遭うでしょうから、政治家にとっては検討課題にすらならないでしょう。

また、消費税(付加価値税)は10%に引き上げることで50兆円の税収になると大前さんは試算していますが、現在の消費税による税収は9兆円あまりで、倍にしたところで18兆円です。

さらに、相続税については以下のように述べています。

一方、日本の相続税の最高税率は50%と突出して高いのですが、その割に、税収総額に占める割合は約1.6%に過ぎません。富裕層や事業継承が必要な企業の心理的な負担感のほうが非常に大きく、デメリットが上回っていると感じています。

そもそも、財務省のサイトにもあるように、相続税というのは資産課税に属するものです。
「課税されるなら使おうという人も増え」というのは相続税にも当てはまるし、資産課税を推進しようとしている立場でなぜ相続税に反対するのか、結局よくわかりません。
というか、大前さんのストーリーからすると、お金持ちが1%の資産課税を嫌って消費するとそこで10%課税されることになるんですけどね。

文中で所得税のない国としてモナコを挙げていますが、この国の一人あたりGDPが高いのは、単に移住してくる人の平均所得が非常に高いからです。
かりにモナコ(人口3万人=夕張市2つ分)に居住する億万長者と同数の億万長者を日本に誘致できたとしても、(ストーリーの設定上)税金も取れないうえ国内消費に与える影響はほとんどないでしょう。

本についての全体的な感想は、皮肉は達者だけど結局自分のことしか考えてないという意味においては、この二人もその他大勢の日本人(私もです)と変わらないということ。
もちろん、大前さんは世界的なコンサルタントで、柳井さんは世界的な経営者なので、観点は一般の人とはやや異なっています。
それでもやっぱり、日本のために何かしようというのではなくて、「いざとなったら自分は(日本から)逃げます」という立場を高らかに表明しているだけのように思えます(ま、タイトルのとおりですね)。
大前さんや柳井さんの個人としてのインセンティブを考えればそれは当然なのですが、本出してまでわざわざ言ってほしくなかったというのが正直なところです。




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