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ここにもインセンティブの奴隷 ~城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか』~

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城繁幸さんのブログをどういう経緯からかいつも読んでいるのですが、そういえば著書は一回も読んだことがなかったと思い、世間でも話題になった本を手にした次第です。

内容は、いかに既得権益者層が富を占拠しているかということがいろんな視点から描かれていて、読んでいてむかむかしてくるのですが、そこではたと気づいたことがありました。
それは以前読んだ『会社は頭から腐る』という本に書かれていた「インセンティブの奴隷」という用語で説明できるのですが、いまの日本社会は(というかどの社会でも)あらゆる人が利己を可能なかぎり追求して得られた結果なのだということです。
これは良いとか悪いとかではなく、経済学の基本もすべての経済主体が利己的に行動することを前提につくられています。
もちろん場合によっては利他的に行動することもあるでしょうが、そこに見返りへの期待が含まれているかぎり、そのような行動は利己的だといえます。

日本の富の大部分が高齢者に帰属していることはよく知られていますが、そのお金に明確な使い道があるわけではありません。
高齢者は(何歳まで生きてしまうかわからない)自分が死ぬまでに資金が枯渇しては困るから、お金を使わないのだと思われます。
単純に、お金がないとみじめだからというだけでなく、若いころにものすごいインフレを経験した世代でもあるので、余計にでも慎重になるのでしょう。
この、定期預金で死んでいるお金(そして、銀行はそのお金で国債を買う→国の負債が積み上がる)を流してやるには、高齢者にお金を使うインセンティブが生じることが必須となります。
その一つの方法は、相続税の引き上げだと思います。

年配者ほど多く富の配分を受けること自体は今にはじまったことではありませんが、この富の年齢傾斜配分を維持したまま人口ピラミッドの出っ張り部分が上シフトすることで、年配者一人当たりの富はなぜかあまり減らずに若年層一人当たりの富が激減することになります。
なぜ年配者の発言権がこれほどまで大きいかといえば数が多いからで、富の配分を決定する立場にある(政治家を含む)マネジメント層も年配者が圧倒的多数です。
このマネジメント層の人々が、なぜ同世代のノンワーキング・リッチの賃金を抑制しないのかは不思議ですが。
で、弱小勢力である若年層にしわ寄せが行くという図式です。
若年層を非正規化するよりも、ノンワーキング・リッチのおじさん数人を解雇したほうがよほど効率的な場合であってもです。

若年層の一人として、自分たちへの富の配分を求めるとすれば、単に「オレにもケーキをよこせ!」的戦法ではなく、若年層に富を配分させるような何らかのインセンティブを働かせる必要があるのでしょう。
そうしなくてはもうどうしようもない、というような。
インセンティブ理論を当てはめる場合、なにも世代を代表しなくても、自分ひとりに富が配分されればいいわけですが、ひとたび世代間格差を埋めることができれば、あとは惰性で富の配分を受け続けることができる可能性が高まります。
年配層で起こっていることをそのまま若年層に置き換えることができれば、今後の労力を最小化できるというわけです。
最初の人の苦労で得た権益を、それに続く膨大なフリーライダーたちがせしめていくという図式ですね。
利己とはそういうことだし、これはもう神にしか止められません。

世代間格差の問題については、『社会保障の「不都合な真実」』という本に詳しく書かれているようなので今度読んでみます。





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